今日も一夏は午後四時頃に彼の病室に白衣でやってきた。
「今日、また夜勤なのよ」
曇った表情で彼女は言った。
「先週、あんなことがあったばかりだから不安なの。それに今日の当直医もまた蒼先生だし」
「そういえば、山下先生が言ってたんだけど、蒼は毎晩遅くまで病棟を回診するんだって?」
「ああ、あれも大概迷惑よね。本当は午後三時までに病棟の指示は出してもらう決まりになっているんだけど、あの人夜遅くに来て、平気で指示出しするのよ。それに指示が終わると、今度は私達の業務に一々文句をつけてくるのよ。『この患者は発熱しているのに何故すぐに報告しないんだ』とか。
そのくせ日中に連絡すると忙しいって言って邪険にするくせに。だからあの人が夜病棟に来ると皆、忙しいふりしてナースステーションから離れるの。でも今日みたいに当直の日はすぐ当直室に籠るからいいんだけどね。
そうだ、前に言っていた金清さんのことだけど、見野さんにも確認したけど、やっぱりその日は金清さんはナースステーションには来ていないって。カルテも確認したけど、不眠の訴えはなかったようだけど。それがどうかしたの?」
「そう・・・・・・いや、何でもない」
「そう、じゃあ、行くね」
「ああ、気を付けて」
「ありがとう」
冴えない顔色のまま彼女は部屋を出た。海智は考えた。金清は何故あんな嘘を言ったのか? 薬を貰いに行ったのでなければ何をしにナースステーションの方へ行ったのか?
考えても分からない。やはり本人に直接確認するしかなさそうだ。
次回更新は10月15日(水)、18時の予定です。
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