「あっははは。そういえば代理も可能だと話していたけれど、なんならあなたが――」
「もちろん行きます」
冗談のつもりで聞いたようだが、美羽は喰い気味に即答した。
「えっ……。行くの?」
「はい。行きたいです」
ちなみに美羽は、この探偵業界において恩師でもある局長からの指示で、できる限り自身の職業は周囲に明かさないように言われている。
そのモデルさながらのルックスから、近所のひとには、『アパレル関係の仕事をしている』と偽り、肝心な本業といえば、現在は人手不足につき開店休業中。
市の広報誌やインターネットのビジネスサイトには、『新入社員随時募集中』と掲載しているものの、なかなか集まらないのが実情だった。
「じつはしばらく暇なんです。局員……、じゃなくて助手も同行させたいのですが、かまいませんか」
完全に乗り気となった美羽を前に、引くに引けなくなったのであろう。志村は眉を八の字にすると、ため息をついた。
「わかったわ。それじゃあ私から弁護士に連絡をしておくから。でも、相当山の中だし、雪も降っているけれど、だいじょうぶかしら……」
「だいじょうぶです。すぐに行きます」
「あっはは。気が早いわね。でも今日はお通夜だから、明日の夕方にしてもらえるかな」
「わかりましたっ」
美羽は急いで部屋に戻ると、クローゼットからキャリーケースを引きずり出す。
珍しいワインも堪能できるし、そのような厳かな場へなど参加した経験がない。
式の内容からして、なにか命賭けのアドベンチャーが待っているはずだと、かすかに期待もした。
「探偵の血が騒ぐわね」
声を弾ませ、着替えや日用品を詰めこんでいくも、相手がゴミ箱ですら死にそうになっていたのを思いだし、軽くへこんだ。
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