序章 導き

ある日の診療室で

せんせい、一つ教えてほしいことがあるんです。

わたしは統合失調症だったのでしょうか。

そうなんです。いまのわたしは、どうやら統合失調症っぽくない。そうでしょう。そうでしょう。自分でもわからないんです。自分が統合失調症だったということを。だってわたしはいま、とっても前向き。どんどん先に進んでいこうとしているんですもの。悩みがあるとすれば、ただただ何をするにもひどく疲れやすいということだけ。

せんせいも思われるでしょう? いまの様子だと、とても好ましい回復ぶりだって。それでどうして統合失調症で、障害者なのか。それは本当なのかって。

でもそのように判を押した医師がいるのだから、本当のはずなんです。だからずっといまでも医師の言いつけを守って服薬も続けているのですから。

わたし、せんせいに初診でお会いしたときに、三十歳で精神科病院に入院して診断を受けたって簡単にお話ししましたけれど、正確に言うとそれは違うんです。

わたしはあの入院した前後の記憶を失っていて、何もおぼえていない。それが正しい答えです。だから、本当にそのときの医師が、その診断の説明をしたかなんてわたしにはわからない。ただ、その病院から転院したときにもらった書類の病名の欄に、統合失調症の言葉を見つけたわ。それで、あ、そうなんだって理解した。

それまでにも病室内に置いてあったパンフレットで、統合失調症の回復に向けての一歩について目にしていたから、だから、自分がそれかもしれないって思っていた。 それで、あ、そうなんだって、絶望したから医師にちゃんと確認できなかったわ。

 

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