「ぼくも連れていってくれないか? あの空の向こうへ。いまのぼくを知っているのはきみだけだ。きみならいつもぼくを見ていただろう。ぼくのことを知っていただろう」

川の土手の草はらに寝転がり、ぼくは夜空を眺めていた。近くの空港からの最終便だろうか、飛行機が横切りどこかへ消えていく。空がどこまでも先へ続いているのを感じた。

その空の下を風が流れている。その風に運ばれて、堤防を走る車も、サラサラと流れる川の水面も、宇宙の空間へ吸い込まれていくのをぼくは感じた。

ぼくは真っ暗な闇に立っていた。

そこにはただ一艘の船が漂っていて、ぼくは手を伸ばし叫んだ。

「ぼくも連れていってくれ」そこは静かな空間だった。ぼくは背中にぬくもりを感じた。誰かが耳を澄ましている。誰かが視線を送っている。その誰かが小さくささやいた。

「きみはもうこの船に乗っている」

空はどこまでも先に続いていたし、影はいつも足もとにあった。このときぼくは彼を知った。

ぼくは彼に尋ねてみた。

「ぼくはどこへゆくべきか」

彼は答えてくれた。

「共にゆこう。あの空の先へ。小川と月と風がきみを導く」

ぼくは彼らと共に旅立つ。

人とは道を分かれながら、孤独で寂しい道をいく。ゆく先はいつも真っ暗闇で、ゆき詰まりの恐怖には慣れることなく、それでも歩き続けることをやめない。

以前なら、振り返り立ち止まり、しゃがみ込み、覆いかぶさる絶望と虚しさに、知らないうちに消えてしまっていたぼくの影は揺るぐことなく闇に立っていた。

ふと気がついたら、ぼくはひとりだった。相変わらず人の足もとにうずくまっている。いくら多彩な夢をみても、やはり足もとの影は消えないから、だから彼がいるのを思い出す。ぼくが生きていけるのは彼がいるから。

だから、ぼくも語り始めよう。彼との対話を。

ミジーユ・キチノ