【前回の記事を読む】統合失調症と診断された私が、ずっと医師に問いたかった疑問。「自分は統合失調症だったのか? そして今はどうなのか?」

口絵にかえて「こころの船出」

十八に近づく頃、眠れない夜が続いた。知らない誰かの記憶を掘り起こすように、見知らぬ意識が流れ込んできて、絶えず頭の中を回転していた。

眠る先に見る夢とはなんだろう。苦しむために見るものかしら。それともぼくは、正しい夢を見ることができない病気だろうか。

夢とは何か。見せかけの色を塗り、自意識過剰に光が揺れる。

多彩だけれど、それでいて色のない空間。それは、まるであそこに見えている大空と似ている。

ぼくは、いつ頃からか、夢をそのように考えるようになっていた。その空を見上げてぼくはつぶやく。

「ぼくはこれからどこへゆこう」空はやがて夜になり、真っ暗な闇を地上に見せる。そしてぼくはまたつぶやく。「ああ、なんて広い空間なのだろう」

そうつぶやくたびに、ぼくは背中に何かを感じた。ザワザワと騒ぐ何かがあった。ぼくは翼だと思った。翼が飛びたいと願い、音を立てるのをぼくは聞いていた。

河原の草はらに身を投げ出し、大地を背に夜空を見上げた。そこには月の船が浮かんでいて、ぼくはその船頭に声をかけた。