声を発した男に、博昭はバットを投げつける。バットは男の顔を直撃し、路上に落ちた。男がうずくまる。

まずは二人──。

「この野郎!」

もうひとりの男の左拳が博昭の頬にあたり、ガツッという音がした。

「ぶっ殺す」

男はなおも左拳を繰り出した。それを博昭の右腕が払った。そして左の掌底で男の顎を打った。

男は伸びをするように体を伸ばし、仰向けに倒れ込んだ。すぐに追い打ちの足蹴りを入れてから、博昭は右足を軸にして体を回転させる。回し蹴りがうずくまっていた男のこめかみにヒットした。三人目──。

「うおー」

最後の男が、博昭につかみかかってきた。が、次の瞬間、足払いをかけ、転倒した男の鼻っ柱に肘打ちを叩き込む。肘とアスファルトに挟まれた男の体が奇妙に痙攣する。博昭は男の体に馬乗りになり、さらに攻撃を加えるために右腕を引いた。

その腕を何者かがつかんだ。凍った路面で足が滑る。反射的に右に回転しながら、横蹴りを繰り出す。空振り。

男がいた。先ほど見かけた男。雪かきをしていた男。

睨みあった。

白い息が交差する。

男は静かだった。闘気が感じられない。 整形か、と博昭は思った。その人工的な顔は仮面のようだった。

「もうよせ。死ぬぞ」と男が言った。喉頭がんの患者のような声だった。

博昭は男の言葉を無視して向きを変えた。路上でうめいている男を見下ろしながら、右足を引いた。顔面を踏み潰そうと足を下ろす。が、平衡感覚がおかしくなった。アスファルトが目の前に迫ってくる。とっさに両手をついて前転をし、そのままの勢いで立ち上がる。

またあの男だ。

博昭は反射的に右ストレートを繰り出す。

ほとんどの敵を一発で倒してきた右の拳。

しかし、男は微かに動いて拳をかわすと、博昭の右腕を固定し、そのまま捻じりながら背後をとった。

男が博昭の首に左腕を巻きつけてきた。博昭は体を揺さぶったが、男の力は強靭だった。頸動脈に男の手首の骨が押しつけられる。

男の腕を引きはがそうともがいた。だが、どうやっても引きはがせない。男の腕がロープのように絞まる。まるで絞首刑台の縄のように。

呼吸ができない。息が詰まる。

闇がおとずれた。

次回更新は10月10日(金)、21時の予定です。

 

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