「さあ、着きましたよ。ここが我々の宿舎です」という吉田の声に促されて、木田は分厚い木製の玄関扉の前で降りた。

建物は北側に海を臨む景色のいい傾斜地を利用して建てられていた。眼下の海からは強い風が森を駆け上ってきて、周囲のココヤシの大きな葉を絶え間なく揺らし続けていた。日本式に玄関で靴を脱いで上がった建物の中は手入れが行き届き、日本で予想していたより遥かに清潔で綺麗だった。

玄関から廊下が直線的に奥へ伸びていて、左手に個室と洗面室が並んでいる。右手は食堂で、その奥が台所。更に奥にも部屋があるようだ。食堂の隅にソファーが設(しつら)えられて、寛(くつろ)げる談話コーナーになっている。

その脇から二階に上がる階段があって、二階には広いリビングルームの他、個室が並んでいるが、殆どが倉庫代わりに使われているらしい。二階のリビングルームの前からは屋上へ上がる外階段へ通じる扉がある。

吉田の案内でハウスの中を一通り見せてもらって、改めて階下へ戻った。スタッフは全員が外出中とかで、各部屋の扉を開けてみることはできなかったが、おおよその様子を把握してから、自分に割り当てられた一階の奥の個室へ荷物を運び込んだ。この間中ずっと、賄い担当の現地の娘が一人、所在なげに台所でじっとラジオを聴いていた。

食堂脇のソファーにもたれ込んでパソコンを弄(いじ)っている吉田の前に戻って、「インターネットは繋がるんですか」と尋ねる。おもむろに顔を上げた彼は

「ええ。でもあまり良好とはいえませんけどね。動画はまあ無理と思っていた方がいいですよ」と答えて、どうぞ、と手で向かいのソファーに座るように促す。

「コーヒーでも飲みましょうか。マリア、コーヒー!」と彼は台所の奥に声を掛けた。マリアと呼ばれたさっきの小柄な娘は無言で立ち上がって、なみなみとコーヒーを注いだ大きなマグカップを二つ彼らのところへ運んできた。

「サンキュー。ナイス、ツー、ミーツユー」と木田が彼女に日本訛の簡単な英語で挨拶すると、はにかんだように笑ってそのまま行ってしまった。彼女は最初に思ったより大分若そうである。

「彼女は未だ一六歳ですよ」

木田の気持ちを読み取ったかのように吉田が応えてくれた。「いつも教育してるんですがね。未だ、きちんと挨拶もできないんです。もっとも、彼女はここへ来てから未だ三ヶ月たらずだったかな」

 

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