同年十一月、岸和田の御伝馬御用問屋の蔵納(くらのう)家から、当主半右衛門の次女喜久を妻として迎えた。新郎の九歳下、十四歳の幼な妻である。喜久は養母お勝の従妹に当たり、恭平が夫の親類なのに対抗して、お勝が自分の親類から選んできたのである。

婚礼当日、喜久の到着が遅れて一同をやきもきさせた。特に、花嫁の顔を見ていない恭平は完全に落ち着きを失っている。祝宴の客が集まり始めた夕刻になって、ようやくお勝を先頭に花嫁の一行が播磨屋に到着した。

「寒いし、風は強いし、途中で馬が止まってしもうて、往生しましたわ。やっと着いた。あー、忙し、忙 し」

お勝は、花嫁を一目見ようと近づく客に言い訳しながら喜久の手を引き、恭平の待つ奥座敷へ招き入れた。養父母と新郎新婦の四人きりである。

「蔵納のご両親様もすぐに追いつきますやろ。とにかく早くお嫁さん見せたろ思いまして、私らだけ先に来ましたんや」

お勝が手柄顔で恭平に言う。

「おおきに、ありがたいことでございます」

まずはお勝に礼を言ってから、恭平は喜久の顔を覗き込んだ。

「播磨屋仁兵衛だす。イトはんには遠路お疲れ様でございます。よろしうお頼み申します」

色白でくっきりした目鼻立ちの喜久は、十四歳にしては大人びて見える。しかし、明らかに緊張していた。恭平の目には、小さくて折れそうに見えた。守ってやらねば、という思いが自然に湧き上がった。

「喜久でござります。私のような者をお迎え戴き、おおきにありがとう存じます」

伏し目がちに口上を述べ、ようやく喜久が顔を上げた。緊張を察していた恭平は、視線を合わせて思い切り愛想よく微笑んで見せた。喜久の口許もかすかに緩んだ。二人の間で、時が止まった。お勝の声が響いた。

「何や、二人で見つめおうて。傍の者が恥ずかしうなるわ。喜久、花嫁はんのお支度は大変やで。急ぎ」

「はい」

小さく返事をして出て行く喜久の後ろ姿を、恭平は口を開けて見とれていた。