独立
色の黒いおじさん(親方)は高齢で仕事も引退すると仄めかしており、勝也はおじさんの息子の現場ばかり応援にいっていた。
勝也もそれなりに仕事を覚え、同級生と一つ年下の後輩を連れて仕事をしていたので、息子からも気に入られていた。勝也は次男に「独立したらええ、仕事はオレが渡すから」と何度も誘われた。
当時、おじさんの3人の息子の内、長男は三男の所で働いており、次男はバリバリ営業して若い従業員4人を連れて仕事をするやり手だった。勝也はおじさんの所の従業員であり、次男、三男の所にはすでに傍心が居たので、どちらにも行けないと思っていた。
そんな時期に声をかけてくれたのが、現在の仕事の恩師だった。
この方も江美のスナックの常連さん。半年以上も前から何度も何度も口説かれていたが勝也は、おじさんを裏切る事になると思い断っていた。
その恩師は発電所や鉄工所などプラント工場での仕事を主にしており、勝也が断り続けると「職人の送迎だけで5千円払うから」など、色々と良い条件を出して誘ってくれていた。
勝也は惹かれつつもひたすら断っていたが、そんな時、恩師に、「日曜日の作業やったらどうや?」と言われ、最終的にはおじさんに承諾を取り、同級生や後輩などを引き連れて、おじさんの仕事が休みの日に行く事になった。
30年以上も前の事だったので消費税などは関係なかったが、一人当たりで2万円の日当を現金で支払ってくれていた。
この頃にはおじさんの仕事はほとんどなく、他の現場の応援ばかりで、勝也も面白くない日々が続いていた。そんな時、勝也はおじさんに辞めて独立したいと話をしに行った。
おじさんは「すまんな。わしも歳やからな、今までこんな事はした事ないけど勝也くんが連れてきた二人の給料も一緒に渡しとくわ」と、3人分の給料を貰って辞める事になった。
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