「香子、話したい!」

どうしよう。声もかけるなと話したのに。十五分後、ゆっくりトイレの外を見たら、まだいる。どうすれば………やっぱり、丈哉さんに電話しよう。

「丈哉さん、ごめんなさい。仕事中に」

「どうした? 何かあったんだね」

「今、日暮里の駅のトイレ。実は前の夫が声をかけてきたので、トイレに逃げ込んだの。外を見たらまだいるの。どうしていいか分からなくて……」

「そのまま、待っていなさい! 二十分ぐらいで行くから。分かったね。動かないで、着いたら電話する!」

「山田さん、車、日暮里駅に回して! 急いで!」

高木秘書、

「どうしたんですか?」

「今、香子からSOSだ。前の旦那が追いかけてきて、トイレに逃げ込んだそうだ」

十五分で着いた。

「今、着いた。出ておいで」

男性が一人、立っていた。

「中山さんですか?」

「そうですが。どちら様で」

「香子の夫です」

香子が出てきた。

「香子!」

「気安く呼ぶな! 僕の妻だ。あなたは、前に香子と会った時に、声をかけるなと言われているはずだ」

「どうしても、もう一度話したくて」

「ちょっと待ってください」と電話。

「私だ、山岡だ。近々で空いている日程は?……ああ、分かった。空けていてほしい。弁護士と一緒に、明後日の金曜日、三時にあなたの自宅に行くので、必ず居るように。今後のあなたの行動に対して、弁護士と話し合わせに立ち会ってもらう」

「…………」