「大丈夫」

「兄さん、金曜日二時でお願いします。じゃ、またね」

「ありがとう。君も一緒に行こうね」

「いいの?」

「帰りはご飯食べてかえろうな」

「嬉しい」

金曜日午後二時、大和銀行に着いた。兄が迎えに来ている二階応接室へ案内された。すると、頭取も挨拶に来た。

「おおー、久しぶりです。石川頭取」

「山岡専務、うちの杉山と親戚らしいですね」

「ええ、義理のお兄さんです。歳は僕が上ですが。アハハハハ」

そしたら電話。

「あッ、すみません。社長、どうしました? 今、大和銀行新宿店にいます。香子のお兄さんがいますので、家のローンの借り換えに来ています。えっ? いいですよ。石川頭取もいます。すみません。うちの吉田が近くを通っていて、僕の車がとまっているのを見て、ここによるそうですが、よろしいですか?」

「ええ、是非。嬉しいです」

 

「社長、どうしたんですか?」

「君が居るという事は香子さんもいると見た。香子さんに会いに来た。残金はどれぐらいあるんだ?」

「一千万ぐらいですかね」

「鈴木、専務の残金、僕の口座から全額払って。専務、支払い予定額を香子さんの積み立てに回して」

「えっ、良いんですか。後で返せと言われても、僕は返済しませんよ」

「結婚祝いだ。僕は香子さんの大ファンだからな。鈴木、僕の財布にいくら入っている」

「社長、お金持っているんですか?」

「もちろん、財布はあるが、中身は知らない。妻が入れているだろう」

「社長、七十万、入っています」

「それで口座作ってくれ。毎月、積み立てでお願いしますね。敏明さん、それじゃ、先帰るね」と帰っていった。

兄は、慌てているようだ。少しおかしい。いつも冷静な人が。

「あ、ありがとうございます」

丈哉さん、また電話。