それより遡ること四年前。高校2年生だった私は修学旅行で初めて関西へ旅行した。京都、奈良、伊勢志摩への旅行であった。
初めて見る古都の荘厳さや美しさにはもちろん感動したが、自分にとっての一番の関心事はと言えば、故郷ではまず出会う機会のない外国人観光客であった。
中学生の頃からアメリカへの留学を夢見て英会話を独学で勉強してきた自分には、それまでの勉強の成果を測る絶好の機会である。
京都の街のあちこちで見かける外国人たちに話しかけて見たくてうずうずし、有名なお寺や庭園を目の当たりにしても、気はそぞろ。
早速、清水寺で映画で見るような美男美女のハネムーン風のカップルを見かけ、それこそ文字通り清水の舞台から飛び降りる気持ちで、「ハロー! ハウ・アー・ユー?」と話しかけて見た。
すると、側にいた通訳の日本人の女性が「この方たちはメキシコからのお客様なのでスペイン語なのよ」と優しく窘(たしな)められてしまった。だが、それにメゲてはいられない、何せまたとない稀有のチャンスなのだから。
次は、平安神宮の境内であったと思うが、初老の白人のグループが写真を撮り合っていたのを見て、その中の優しそうな60代後半風のおばあちゃんに早速、「ハロー!」と話しかける。
急に学生服の若い学生に声を掛けられて、そのおばあちゃんも嬉しかったと見え、親切にいろいろと話の相手をしてくれた。10分くらいの会話の後にアメリカの住所を教えてくれ、アメリカに来ることが有ったらぜひ訪ねる様にと言ってくれた。
その時は、まさか自分が実際にアメリカに行くなんてことは考えてもみなかったが、それを契機に月に一度くらいの文通が続いていた。今、訪ねて行こうとしているのはカーター夫人というそのおばあちゃんなのである。