両親と同じように、機嫌を窺いビクビクしてしまうかもしれないけど、一樹と一緒にいて、手を握ってもらえるだけで心が落ち着いた。
友達とは違い、今の私から彼をとったら何が残るというのか。私は本当に運の良いことに、一樹という優しい人に出逢えたことによって、ひとつの壁を乗り越えることができた。
本当に少しずつ、一樹は私に気を配りながら距離を縮めていってくれた。
抱きしめられることに慣れ、触れ合うという単純な動作を、そのたびにフラッシュバックを繰り返しながらも諦めず、私たちは、互いに時間をかけながらではあったが、ひとつひとつを長い年月をかけ克服していった。
一樹に対しては、常にごめんという気持ちしかなく「普通ならこんなめんどくさいことしなくて済むのに、本当にごめんなさい」と伝え続けた。
でも「俺は薫が好きだから一緒にいるんだし、そこは気にしなくていいんだよ」と優しく受け入れ続けてくれた。
彼は理性的で優しく、何より常に私のことを第一に考えてくれた。
だから私はたまたま克服できただけで、克服できずにいる人はきっとたくさんいるのではないか。
私がフラッシュバックによって絶望したあの日のように……。
次回更新は9月24日(水)、20時の予定です。
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