住職が押入れの奥から黄ばんだ段ボール箱を取り出した。その中にはサトルともう一人、同じ顔をした子供が手をつないだ写真があった。おどけた顔をした二人の写真も入っていた。その他にも小さな頃のオモチャやお揃いの服もあった。それを見て、サトルは頭の中の暗黒の部分に光が当たった気がした。
住職は少し間を置いてから話し始めた。
「これがあなたたち兄弟のまだ小さかったときの物です。あなたの両親から預かってほしいと言われて、ずっと保管していました。こちらを今日、あなたにお返ししましょう」
住職は写真やオモチャを箱にしまって、サトルのほうへ押し出した。
「あれは平成十年の春でした。あなたはご両親と双子のお兄様と四人で、この湖に遊びに来られたそうです。観覧船に乗られたときに事故が起きました。あなたのお兄様が船から落ちてしまったのです」
突然、サトルの記憶が戻ってきた。
「お兄ちゃんを船から落としちゃったあ」
泣きながらサトルは母の胸に飛び込んだ。
「お父様は慌てて甲板に出ました。騒ぎはすぐに船長に伝わり、船は止まりました。係員が甲板に行くと、お父様はすでに湖に飛び込んでいました。係員もすぐに浮き輪を持って飛び込みました。
それからお兄様は引き上げられて、係員が人工呼吸しました。船が桟橋に着く頃には救急車がもう来ていました。病院へ搬送されましたが、残念なことにお兄様はすでに亡くなっていた。そのようにあなたのご両親は話しておられました」
「オレが突き落としたんです」
「思い出されたのですか?」
「はい、たった今」
住職が心配そうに自分の顔を見ているのがわかった。
次回更新は9月8日(月)、18時の予定です。
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