「相手は決まりましたか? 決まったらお互いに写真を交換して、先ほどと同じように撮影者の癖を探して、それをメモしてください。それが終わったらお互いのメモを見て、自分の個性を相手がどのように見たかを確認します。

自分では思ってもみなかった癖を教えてもらえるかもしれませんよ。お互いにどう思ったかを話し合ってみましょう」

琴音の写真には、両親を撮ったものや小学校へ通学中の子供たち、繁華街の人波、大きな交差点などが写っていた。中にはカメラに向かって笑顔を向ける人たちもいた。

「フレンドリーで明るい写真が多いですね。あなたは社交的な人なんでしょう」サトルは写真を見ながら、琴音に言った。

「社交的っていうわけではないんです。ただ積極的に人と接しようとは思っています」

「優しさが滲み出て、見ているオレも幸せになる感じがします」

「ありがとうございます。あなたの写真には人がほとんど写っていませんね。景色ばっかりで。でも、どれもみんな素敵な写真です。撮り方が上手です」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。オレはプロを目指していますから」

「そうなんですか。すごーい。私なんかSNSに載せる写真の見栄えをよくしようと思っただけ」

琴音はやや苦笑ぎみに言った。

「はい、時間になりました。次にお互いの顔や姿を写真に撮ってください。撮ったフィルムを提出してもらって、第一回目の講義は終わりにします」

スクールの初日が終了すると、サトルは琴音を食事に誘った。琴音は最初びっくりした顔でサトルの目を見つめたが、すぐに誘いを了承した。琴音は医薬品会社に勤める会社員で、サトルより六つ年上の二十四歳だった。サトルは一人っ子で、高校まで不良をしていて両親に迷惑をかけたことを話した。

「だから、プロのカメラマンになって、両親に恩返ししたいんだ」

「すごいですね。私なんか給料も安くて、まだ親元から離れられなくて。それに今回のスクール費用も母から借りてるの」琴音は恥ずかしげに顔を伏せた。

「オレだって同じだよ。スクール費用どころか、カメラも買ってもらったんだ」

「そうなんですね。それを聞いて、私もホッとしました」

「これからもスクールが終わったら、一緒に食事しませんか」

「はい」

サトルの言葉に、琴音は素直に答えた。

それをきっかけに、サトルと琴音の付き合いは始まった。

次回更新は9月2日(火)、18時の予定です。

 

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