カチンと音がした。慎重に土をどけていくと、そこには骨壺があった。中を開けると白い粉に小さな塊が混じっていた。たぶん人骨だろう。

サトルは一番大きめの骨の塊を拾い上げ、丁寧にハンカチに包んでポケットに入れた。骨壺に土をかけ、スニーカーで土を踏みしめ、まわりの土で靴跡を隠した。誰にも気づかれなかったようだ。サトルは逃げるように車に戻り、すぐに車をスタートさせた。

車の中でポケットからハンカチを取り出した。注意深くハンカチを広げる。

もし、あの墓が自分の墓だとしたら、この塊はサトルの骨ということになる。

しかし、この塊を見ているのはサトル自身なのだから、サトル自身は死んでいるわけがない。それならばいったいこの骨は誰の骨なのか? 小学校入学前の自分は死んでいたのか? だからサトルには小学生よりも前の記憶がないのか? 

六歳で死んだ子供がまったく別の形の人間として生まれ変わることなどあり得るのか? 謎は解決するどころか深まるばかりだった。

写真スクールの仲間に、一人変わり者がいたのを思い出した。彼は法医学者を目指して医学部受験の勉強をしながら、遺体の写真の撮り方を覚えたいからというスクール始まって以来の動機で入学した。

名前は山口蒼洋 (そうよう)。山口は東精大学医学部に准教授として勤めていた。あいつだったら何かわかるかもしれない。特に親しくしていたわけではないが、講師から将来横のつながりが大切になると言われ、卒業時に写真スクールの同期のほとんどは携帯電話の番号を交換していた。

「山口か。久しぶりだな。オレ、森本。写真スクールで同期だった、覚えてるか?」

「へえ、どうしたんだ、急に? 同期の出世頭である森本サトルを覚えていないわけないだろう。そのうえ僕たち同期のアイドルだった琴音ちゃんを奪ったんだから」

「人聞きが悪いな。お前らが消極的だっただけだろう。オレはただ好きになったから付き合ってくれって言っただけさ。そんなことより、ちょっと相談があってね」

「カメラについて言えば、君のほうがプロだろう。僕が教えられることなんてあるかな?」

「いや、今回はお前の専門に関係があることなんだ」

「いったいどんな相談なんだ?」

「それを直接話したいんだ。今からお前のところに行っていいか?」

「何時頃に来られるんだい。仕事柄、いつ呼び出しを受けるかわからないんでね。死者は真夜中に熟睡中だろうが、彼女とデートしていようが、そんなこっちの都合なんて考えてくれないんでね」

山口が飄々とした様子で言った。「それはお気の毒さまだな。とにかくこれから三時間後にはそっちに着くと思う」

「わかった。急用が入らなければ待っているよ。もし出かける用ができたら、こちらからまた連絡するから」

「そうか、悪いな。とにかくすぐに行くよ」サトルは東京に向かって車を走らせた。

次回更新は9月1日(月)、18時の予定です。

 

👉『あなたの子供が生みたかった』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】添い寝とハグで充分だったのに…イケメンセラピストは突然身体に覆い被さり、そのまま…

【注目記事】一カ月で十キロもやせ、外見がガリガリになった夫。ただ事ではないと感じ、一番先に癌を疑った。病院へ行くよう強く言った結果…