Late at night(プロローグ)
2 Last Train to London – E.L.O.
DJブースは、ダンスフロアーの奥。ステップを3段あがり、ドアを開けて入るようになっている。翔一が、ブースのドアを開けて中に入ると、そこには彼の一番弟子で、このお店でサブDJを、まかせている山崎がいた。
「おはようございます」と、翔一に声をかけた。「おはよう、途中でWAFEに寄って新譜を仕入れてきたよ」そう言って翔一は、濃いグレーに、黒いフォントでWAFEと、ロゴの入っている袋を山崎に渡した。「あれっ、そうでしたか」と言いながら山崎は、翔一から手渡された袋を受け取り、袋から出したレコードをターンテーブルにのせて、針を落とし始めた。
翔一は、DJブースからダンスフロアーに視線を向けてみた。夜がまだ浅いから、ダンスフロアーには人の影もポツポツといった感じ。
DJとしてのお仕事は、まだ始まらない、もっと夜が深くならないと。
翔一は、このお店『My Points』の専属DJ、つまりハウスDJ。山崎と呼んだ男も、このお店のハウスDJ。
現在、翔一は『My Points』の他に2つのお店で、DJを担当している。そっちのほうではゲストDJと、呼ばれている。
専属であり常時お店にいるという形を『ハウスDJ』と呼び、1週間のうち何日か、あるいは何曜日かを、受け持つDJのことを『ゲストDJ』と呼ぶ。翔一は『My Points』のハウスDJ、そして『チーフDJ』でもある。
つまり彼が、この店のトップ・エンターティナーということ。六本木には、DJを必要とするダンスフロアーが、かなりある。そして、選曲する音楽の『ジャンル』も、お店によって細かく微妙に違うはずで、言い換えれば、お店に入っているDJの数と同じ数だけ、選曲する『ジャンル(センスやノリ)』が、存在する。
立地条件なども、重要なポイントだ。そこに集まってくるお客さん達は、一人ひとり、みんな違ったカラー(個性)を備えてダンスフロアーを訪れる。
全く同じ、というものは皆無。良い、悪いとか、好き、嫌い、などの評価は、お店を訪れた全ての客であるゲストがそれぞれ評価して、それぞれが判断していくことになる。
自分の持つスタイルやファッション、その他だったとしても結局、その人が持つなにかとシンクロ(同調)した部分を認める。そう判断したときに、人はお店をヒイキにするようになる。
人は、誰でも自分好みの音楽で踊りたいと思う、誰でもそう。できれば、自分の知っている曲が、たくさん選曲されるほうが踊りやすいし、愉しみやすい。ダンスが大好きで朝まで、ずっと踊っていたい奴もいれば、それが許されない状況を自身や環境に抱えている奴もいるだろうしね。