セットリストNo.1(第一章)
3 Telephone Line–Kraftwerk
翔一が所属しているMy PointsのDJブースに、外線・内線切替のついた電話機がある。チカチカと光る赤い内線ランプの点滅をみつけた彼は、受話器を取り上げ「DJブースです」と言うと、マネージャーの声が「翔一君に、お電話が入ってまーす」聞こえた後、すぐに外線に切り替わった。
「はい、翔一だよ。どなた?」
彼がそう言うと、相手は「もしもーし片山です。翔一君、元気?」と答えた。
「なーんだ片ちゃんか、元気だよ俺は、そっちはどうなの」
「まぁ、ぼちぼちってところかな、可も無く不可もなくって感じ」片山と名乗った男はそう答えた。
この男も翔一と同じく、六本木にあるお店のDJ。歳ははっきりと訊いたことはないが、なんとなくと、見た目で『そんなに変わらないだろう』と解釈して、そのように付き合っている男だ。付き合いが始まってから、大して時間は経っていない。
「久しぶりだね、片ちゃん今、何処から電話かけてんの?」
翔一が訊くと「うん、今は原宿の『CLUB-H』に入ってる」と、片山は言った。翔一には、片山という男が何の用で自分に電話をかけてきたのか解っている。どんな用件なのか、それは次に片山がしゃべりだすとはっきりする。
「ねえ、翔一君さあ今夜『アッタカイノ』ない?」
さっきから翔一が予想していた通りの言葉だ。(ここでひとつ、付け加えておくが、彼の言葉の中にあった『アッタカイノ』とは大麻のこと、横文字で言えば『マリファナ』。
翔一は、受話器を耳に当てたまま、首を少し傾けて目をつぶり、何秒か『カタマッタ』後で、「今夜は、ちょっと持ってないなぁ、少しなの? それとも、まとまってるの?」