露出した肌に蚊や虻(あぶ)が止まり、血を吸ってゆく。それを追い払うのに手を上げると、田圃の土が体の至る所に付着して、泥まみれとなる。夏の農作業の中で、これほど過酷なものはない。
夜になれば、陽に焼けた肌が痛い。その上、蚊や虻に刺された箇所が赤くはれ上がっている。たまらなくかゆい。風呂に入って、家族の者にかゆみ止めのクリームを塗ってもらうと何とか治まるのだが、蚊帳の中に入って寝ようとしても、蒸し暑い夏の夜、なかなか寝付くことができない。
冷房という文明の利器など無縁の時代。どの家の人達も夜になるのを待って縁台など野外に並べ、蚊取り線香を焚いて、その上で団扇を片手に寝そべったり、腰をかけたり、思い思いの姿でくつろぐ。疲労困憊の毎日を送る農家の人達に許された、唯一の楽しみであった。
ところで、子供達にとって夏は楽しい祭りの季節。妻沼の町並みから東に向かい数キロのところにある、関東暴れ神輿で有名な大杉神社の夏祭りが開催される。
この祭りを迎える頃は、熊谷は夏の真っ盛り。照りつける太陽の下で、ふんどし姿の若い衆が神輿をざんぶりと大利根の流れに乗り入れ、もみ合う姿は壮観そのもの、大杉神社の祭礼が終わると、ご先祖の霊をお迎えして、小学校や公民館などの広場に盆踊りの輪ができる。
利根川に架かる刀水橋の際には小屋が掛けられ、川施餓鬼供養の演芸会が催される。近郷からやって来る踊りや歌自慢の素人芸人の出演で演芸会は大盛況。河原には露店が並び、花火が打ち上げられ、大層な賑わいとなる。
また、お盆の期間は、聖天様の境内でも盆踊りが開催される。子供達は、踊りよりもずらりと並ぶ露店に興味を引かれるようで、かき氷やサイダーなどを販売する店の前は、子供達で人だかりができる。後日、食べ過ぎでお腹を壊す子供も出る始末だ。