引き継ぎ業務は事務的に進められた。達也は美春の実力を理解していた。

「美春、お前ならできる。なんてったって俺が教育したんだからな」

しかし、美春は達也に会えなくなる淋しさを堪えるのに必死だった。油断すると涙がこぼれてしまいそうで、美春は達也の声を真剣に追いかけた。

送別会の日。

社長を含め、二十二人のメンバーが集まった。美春は端の席に一人静かに座っていた。

“今日で達也先輩と会えなくなる”

明日からの自分が何をすればいいのかわからなかった。送別会も本当は出たくなかったが、直属の部下が欠席するわけにもいかなかった。見かねた沙也加が美春の隣の席に着いた。

「大丈夫? 泣くのだけは勘弁だからね。一次会終わったら付き合ってあげるから」

「ありがとう」

美春がポツリと言った。

司会が乾杯の音頭を社長にお願いした。

次回更新は8月23日(土)、18時の予定です。

 

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