4 フタジの恋
ある晴れた初夏の昼下がりであった。フタジは、機織り工房の仲間の娘たち五人と、すぐ近くの森に疲れた身体を休めるため散策に出かけた。宮城や村に続く森を抜け出したところに少しばかりの高台があり、それは三輪山の麓の一部で、幼いころからフタジが大好きな場所で、美しい大和盆地が一望できる見晴らしの良いところであった。
だらだらとした上り坂になっていて、そこに一番にたどりついたフタジは、少し遅れて付いてきたカンナに早く来るよう促した。
カンナが上まで来ると、機織りに疲れた体を大きく伸ばし、深呼吸をして広大な盆地の景色を眺めた。フタジとカンナが一番好きな景色が目の前に広がっていた。盆地のずっと向こうには、二上山(ふたかみやま)が美しい稜線をみせていた。
フタジとカンナは息も切らせずに一気にここまでやってきたが、他の三名の娘たちは息を切らして休み休み登っていた。一緒にやってきた仲間たちがどこにいるのか振り返ってみたとき、
「キャー……」
という娘たちの絶叫があたりに響き渡った。少し小高い山に続く道の上から大きな猪が勢いよく下りてきて、フタジたちに向かって走りかかってくるのが見えたのだった。
「フタジ様、猪が、大きな猪が上から下りてきます。気を付けて」
と大きな声で叫んでいた。
大猪は山の上から勢いよく駆け下りてきて、フタジたちの前で立ち止まった。突然のことで、二人の少女は立ちすくんで、後ずさりするだけであった。しばらく立ちどまってフタジたちを見つめていた猪は、二人をめがけて再び勢いをつけて襲いかかってきた。
その時である。どこからか縄にぶら下がって飛び降りてきた若者が、フタジたちの目の前に飛び降りてきた。同時に大猪は、猛進して彼らのすぐ近くまで駆け下りてきた。
若者は、右手で持った先の鋭い石槍を、全身の力を込めて突進した猪の口の中に差し込んだのだった。猪の勢いで若者とフタジやカンナは弾き飛ばされたが、反対側に巨大な猪が上向きに倒れていた。口から入った石槍はその動物の体の中を貫通し、背中から外に槍の先端が出ていた。一瞬で大猪は絶命していた。
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