「今頃この男は胸を押さえ、顔に脂汗を垂らしながらうずくまって苦しんでいるだろう。お兄ちゃんには分からないかい? そろそろ死ぬよ。しかし何故自分が殺されるのか分からないだろう。自分は良い人間だと思い込んでいる。最も質の悪い人間だ。こいつらはみんな死ぬべきだ。そうだろう? お兄ちゃん」

かけるは続ける。

「僕たちは神を倒さなければいけない。そして神の威光を借りて破壊行為を繰り返す人類の数を減らさなければいけない。人類はこの地球に誕生して以来、我々のことを悪と呼び、恐れ抗ってきた。そしてこれからも将来、争いは避けられないだろう。しかし、僕たちは勝つよ。地球本来の美しい姿に戻す。そのために血が流れるのは仕方がないんだ。

それは人類だって同じことをしてきただろう。森林を伐採し、植物を虐げ、自然の中に住む生き物たちの棲み処を奪ってきた。それも私利私欲のためにだ。自らの行いが自らに返って来る因果応報だ。まもなくだ。今まで奪い続けて来た人類が奪われる側に回る。

お兄ちゃんは他の人類より賢い。だから分かるだろう。何が悪で何が正しいのか。人類は我々を悪と呼び忌み嫌う。それこそ悪なんだ。正義の反対は別の正義であるとともに悪の反対はまた別の悪なんだ。分かるかい、お兄ちゃん?」

英良はかけるとの出会いから今までのことを回想した。全てが儚く泡沫の出来事のように過ぎていったようだ。自分の無力さと力の限界も感じた。英良は虚無感と一抹の寂寥感に襲われた。気持ちは荒涼とした大地に放り出された感じだ。