「これは映画のワンシーンだよね!?」
クーカとチッケに起こったことは現実ではない悪い夢なんだと、チッケは必死に思い込もうとした。
しかしもうクーカの命の火は消えてしまったのだ。どこまでも二人で旅していくって出会った時から信じていたのに、まるで未来をもぎ取られてしまったと、チッケの悲しみはこの広い宇宙全体にどーんと重く広がっていた。
「俺がいなくなったらどうする?」
病魔の存在発覚後、沈みがちなチッケにクーカは時々聞くのだった。
チッケの先々を気づかってくれるクーカにチッケは無言で答えるしかなかったが、今はそれを後悔している。
「どうして欲しい?」
と、やはりクーカに聞いておけばよかった。
一人で生きていくのかクーカの後を追うべきか、クーカに決めて欲しかった。
クーカとチッケは学生時代からの数年間は三部屋あるマンションで一緒に暮らしていた。大学に通いながらのクーカのアルバイト代は生活費に使い、チッケのピアノ演奏と講師の音楽活動収入は二人の将来用に貯金をしていた。
クーカの読書量は半端なく、部屋の壁に沿って本を置き続けたため部屋は狭くはないのに狭く見えた。
たまに二人は近所にあったジャズ喫茶に夜中から朝まで居続け、眠い目を擦りながらマンションの三階にある住まいまで歩き、世界に人が何十億人もいる中で何故か出会って手を繋いでいることは奇跡的だと、その当時は純粋に心が弾む思いがしていた。
平凡でも非凡でもない、二人だけの唯一無二の世界が静かに作られていった。