はじめに
厚生労働省の2023年度日本人の平均寿命は男が81・09歳、女が87・14歳で、2040年は男が83・27歳、女が89・63歳と推計している。一般的に大学医学部を卒業し医師になってから人生を終えるまでには40~50年くらいは医師として働くことになる。
医師の進路は基礎医学に進む者もいれば行政職に就く者もいる。しかし、多くは臨床医となり大学病院、一般病院、開業医として患者さんを診る医療に従事することが多い。もちろん、臨床医としての仕事の内容はそれぞれ異なるものの、私の場合は開業医として地域医療に取り組むとともに、診療以外で様々な経験を得ることができた。
診療の合間あるいは診療後の時間を使い、学会発表や講習会への参加など自らの生涯教育のほか、学校健診、休日・夜間急患診療所の出動、医師会活動等を行ってきた。その中で医師会活動や学会活動は日々の診療業務とは異なり他職種との関わりや知識の習得ができ、新鮮で楽しくもある。
私は30年ほど、医師会役員として地域の公衆衛生や保健活動等様々な医師会活動に携わってきたが、自分の専門とする整形外科以外の分野や介護、福祉との連携の重要性を改めて認識することができた。
一方で、2024年度から施行された「医師の働き方改革」は診療と診療以外の仕事を分けることが難しい医師の働き方を大きく変えるきっかけにもなっている。
「仕事と生活の調和」を意味するライフ・ワーク・バランスとは、「仕事」と育児や学習、休養、地域活動という「仕事以外の生活」の両方を充実させる働き方と定義され(政府広報)、今後は医療を取り巻く医師の環境も大きく変化することが考えられる。
本書は、私がこれまで経験した医師の「仕事以外の生活」を中心に、一整形外科開業医として診療する傍ら様々な人との出会い、さらに学会に参加し訪れた土地の名所旧跡や休暇で散策した旅先での新たな出会い、NHK大河ドラマをきっかけに訪ねた歴史散策などを随想・紀行としてまとめたものである。
肩ひじを張らず、コーヒーを飲みながら気軽に読んでいただければ幸いである。
令和7年4月 久保田亘