夢子は声にならない声で閻魔に訊いた。自分の体が病弱でいつかその時が来るだろうし、その時が近いことも想像していたので上目遣いに閻魔を見た。その声は道長にも昌子にも聞こえてはいない。

「そう先走るでない。朕の申す通りにすれば命を永らえさせようと言っておるのだ。朕の言うことを承知するならば、そなたはこれより元気を取り戻しあと少なくとも十年は生きることができる。しかしそなたが孕む子が十になるその日に命を全うせねばならぬ。

そなたは今日より人の命が尽きるのが分かる力を身に付けることになる。その命が尽きそうな者にそなたが触れて、その者を冥界の朕のところにやすらかに導く役目を果たすのだ。そなたが触れた者は苦しまずにあの世に行けるようになる。

そなたやそなたの姫より生まれ出る子は必ず姫で、その姫も同じ役目を負うことになる。そなたの姫も十になる前にそなたと同じ力を身に付けるから、そなたの役目を引き継がせるのだ。どうだ、これを承知してあと十年生きるか、それともこのまま一緒にあの世に行くか返答せい」

閻魔が一方的に話した。夢子は何のことやらよく理解できなかったが、死の恐怖から逃れようと、

「何でもしますから、お助けください」

と、答えた。

「このことは他言無用ぞ。破られればその時にそなたの命も尽きるものと思え」
 

 

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