【前回の記事を読む】「私たち、恋人に見えてるのかな」――“恋人岬”の鐘を鳴らす二人。恋人でもセフレでも友達でも家族でもない。二人の関係は…

アントライユ

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私はスマホを向けて、丸く白いボタンを押す。カシャッと無機質な音が鳴った。写真フォルダで確認すると、先ほど撮った彼の姿。

「面白い顔」

「何で撮るんだよ」

「え、だって嬉しそうだったから。珍しくて」

千春は黙って私を見つめたが、「行くよ」とだけ言って歩き出してしまった。私は彼の歩幅より大きく踏み出して必死に追いついた。

「お前のそれ、嫌いじゃないわ」

「ツインテールが好きなの?」

「ちげぇ。メイク」

「あ、そっち」

私は笑った。好きと言われたのが嬉しくて、つい。

「笑った」

「だって、千春が好きって言うから」

「いや、好きとは言ってない」

「言ってる様なもんじゃん。メイク頑張った甲斐があった。ありがとう」

千春は満足そうに少し微笑んだ。

「あ、お腹いっぱいなんでしょ。美味しかったね」

「そういうことにしとく」

千春の優しい目と目が合った。彼に少し近づけた気がして、心が躍った。

今夜の月は、きっと雲らない。