二十分ほど坂道を歩いてようやく辿り着いたが、レストランの神様にフラれたらしい。平日なのに、かなり混み合っていた。

「どうする? ここ以外ないけど」

「あっちってなんかあんの?」

必死に食事処を探している私を尻目に、千春はレストランの奥を指差した。

「岬があるんだって。行ったことあったっけ?」

「無い」

スマホの中の地図には、『恋人岬』というピンが刺さっている。検索エンジンで調べると『恋人岬 別れる』という文字が入っている窓が目に入ったが、そもそも付き合ってないから関係ないかとスマホを閉じた。

「行く?」

千春は黙ったまま頷いた。

周りはカップルのみで肩身が狭かった。

潮風の影響だろう、鍵とプレートは錆びて風化しているものが多かった。覗き込んでみると、『運命の出会い、ありがとうございます。これからも二人で生きられますように』と書かれてあるものを見つけた。なかなか照れくさいことを書くものだなと、少し眉を顰める。

「運命か。本当にあるのかな」

「知らね」

私たちの今も運命に仕組まれたことなのだろうか。だとしたら、救いようが無くて涙が止まらない。

次回更新は8月19日(火)、20時の予定です。

 

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