高速道路を四時間余り。私が一方的に喋っていただけで、千春からは「へー」「ふーん」「あっそ」という反応しかなかった。しばらくすると眠くなり、目を閉じていたらしい。起こされた時には目的地に着いていた。助手席で寝ていても怒らない所も優しい。いや、彼にとっては私の眠気などどうでも良いのだろう。
車が止まったのは、目が覚めてから少し経った頃だった。開けた窓から感じる潮風の辛さが鼻を刺激する。
青海川という駅。生まれた土地から少し離れた場所にある駅だ。『海が見える駅』なんて言われている。青い海を背景に、白い駅の看板が映えている。通学に利用していた頃と変わらず、人気が無い。波音が聞こえる程静かな場所は、私たちのお気に入りだった。
「久しぶりだね」
「うん」
風に靡く彼の金髪がキラキラしていて、まるでアニメに出てくる美青年の様だ。
「千春、女の子みたい」
「は?」
千春は私に詰め寄って、脇腹を擽ってきた。
「あはは! くすぐったい!」
「自業自得」
波を眺めては懐かしい話をして、笑った。笑っていたのは私だけだったけど、澄んだ空気に包まれて良い心地だった。
光を集めて輝く千春は、高校生の頃の彼と重なった。今はかなり大人びて髪の色も長さも違うのに、鮮やかかつ明るく蘇った。
思ったより強風で、髪の毛が定期的に口の中へ侵入してくるから慌てて髪を掻き分ける。見かねた千春が、自分が使っていたヘアゴムを二つくれた。それを使って二つに括る。鏡の中に映る低めのツインテールをした私は幼く見えた。
「腹減った」
「ちょっと離れたところにレストランがあるよ。サバサンドってやつがあるらしい」
スマホを千春に見せると、頷いて歩き出した。