【前回の記事を読む】先生の前で態度が変わる彼女。その違和感に、理由を聞いてみると急に小刻みに震え始め…「防衛本能…?」

カタクリ

芋饅頭をかじっていると、机上の携帯電話が振動した。『やっほ! 今週の土曜空いてる? 空いてるよね。行きたい所あるから付き合って! 拒否権はありません!』あかりのメッセージは、いつも携帯から言葉が飛び出してきそうだ。

了解!のはやとスタンプを送信して、携帯を机上に戻した。あかりよ、メッセージくらい静かにできないのか君は。そう心の中で呟いて、僕はまた天井を見上げた。

あかりと外出の約束をした土曜日はすぐにやってきた。ここ数日あかりは学級委員の活動が忙しく、園芸委員の仕事は彼女の頼みで香取早苗と行っていたため、あかりとはほとんど話す機会がなかった。

バスケ部は体育館の改装工事により、一ヶ月の間休みだった。それが理由で香取早苗が選ばれたのだと思うが、それにしても最悪の人選だ。「あかりとはどういう関係なの?」とか、

「矢崎くんじゃあかりと釣り合わない」とか、ひたすら香取早苗の言葉のパンチを受ける羽目になった。そのお礼をあかりに言いたくてうずうずしながら、待ち合わせ場所の煉瓦町駅に向かう。

あかりは既に来ていた。当たり前だが、学生服でも作業用のエプロン姿でもない私服姿だった。透けた薄めのジャケットを羽織り、若緑色のワンピースと白のスニーカー、ワンピースと同じ色のハンドバッグを腕にかけていた。

改札奥の階上から発車メロディーが響き渡る。しばらくして降車した乗客が一斉に改札へ降りてきた。男女問わず、多くの人があかりを一瞥してから僕の横を通りすぎた。彼女の周りの空気だけ弾けたような、煌びやかな印象を周辺に漂わせていた。学校内だけではなく、あかりの容姿は世間一般的にも目を惹くみたいだ。

「あ! 颯斗くん!」

僕に気づいたあかりが、手を小刻みに振りながら小走りで向かってくる。彼女の声はよく通るから、人の視線が大挙して僕に突き刺さる。

気のせいとは思いつつ、改札横の柱に身を委ね、髪をいじりながらこちらを見る男性の目色が鋭く、その視線は僕への嫌悪感でいっぱいに見えた。

モデルの女性が純白の歯と共に笑みを浮かべる矯正歯科の柱巻き広告が、男性の目色のきつさを少し緩和してくれている。端正な顔立ちをした青年だから、なんで僕ごときがあかりと一緒にいるのかと、そう思っているに違いない。

「待たせた? ごめんね」

「ううん! 私もさっき来たところ! あ、ご無沙汰して申し訳ございませんね。寂しかった?」

わざと丁寧に話す彼女がおかしくて、僕は思わず笑ってしまった。

「ご無沙汰って、学校では毎日目にしてたし、寂しく感じることもなかったよ」

「え! なに! そんなに私のこと見てたの? いやあ、照れるなあ」

どんなに嫌味を言葉に含ませても、燕返しの如くポジティブな言葉を返してくるあかりを素直に尊敬する。ここは和也によく似ている。