同じく学生時代は 孤独が何よりも怖かった

愛される自信がなくて 人間関係を築くのが苦手で

気が付けば 食事も映画も旅行も 一人で行くことが多かった 

たまに飲み会に誘われても 話の輪に入れずにいた

もっと誰かと濃密に関わりたかった 親友や恋人が欲しかった

 

社会人になると

否(いや)が応(おう)でも しがらみや複雑な人間関係の渦中(かちゅう)にせっしょう投げ込まれた

打ち合わせ 報告 相談 会議 会食 外部との折衝 メールのチェック 苦情処理……

日々の様々なつながりにつか 心はすっかり疲弊し消耗

すると 気を遣いっぱなしの人付き合いから距離を置いて

一人になりたい 休日は誰とも話したくないと思うようになり

あれほど恐れていた孤独が 今度は欲するものに百八十度変わった

 

定年を迎えて老後は

やっと人との交わりから逃れて 一人になれる時間が増えた

誰とも喋(しゃべ)らないまま 一日が終わることもしょっちゅうだ

すると また寂しくなって 誰かと濃密に関わりたいと思うようになり

あれほど欲していた孤独が 再び恐れるものに百八十度変わった

 

よく考えてみたら いつも ないものねだりをしている

結局 孤独と上手く付き合えた年代なんて存在しなかった

 

若い頃は 早く歳を取りたいと思っていた

経験や実績が少ないから 貫禄がないし 言葉に重みもないし

顧客や先輩からは軽く見られるし…… 

髭を生やした 深みのある 渋い感じの中高年に憧れていた

歳を取ると 今度は 写真や鏡に写る 次第に老けていく自分の容姿に焦り始め

健康や体力が衰えていくのを痛感するようになり

若い頃の自身の肉体を羨(うらや)み これ以上歳を取りたくないと

百八十度違う自分を欲するようになった

 

よく考えてみたら 一日一日を生き急いでばかりで無駄にしている

結局 人生を謳歌(おうか)したと胸を張って言える瞬間なんて存在しなかった