満足げに鼻孔を膨らませ、側にあった肥料を勢いよく持ち上げ、それをまた裏に運んでいく。彼女はショートカットの髪を揺らし、白い肌を燃やしていた。
突然あほうになった僕の目は制御を失い、何かの力が彼女への視線を固定して動かすことすら許さなかった。断じて、一目惚れとかそういった類の甘い幻想によるものではない。けれど、理由はわからなかった。
「あれ? 知らない女の子がいるな。店の手伝いしてるみたいだけど、柏木さんの娘?にしては全く似てないなあ。なあ? どう思う? 颯斗」
「……」
「颯斗? 聞いてる?」
「あ、ああごめん。なんて?」
「何だよ急にぼーっとして。あの女の子見えるだろ? あんな子、前はいなかったよな。柏木さんの娘にしては、遺伝子からして全く似てない気がするし」
和也の言う通り、確かに全く似ていない。遠目から見ても、彼女は誰からも美人と評されることは明白だった。錦糸のような白い肌も、柔和な表情も、それを支える整った顔立ちも、柏木さんとは似ても似つかない。こう思っていると、どこか柏木さんに失礼な気はするけれど、それは触れないでおく。
「同感。初めて見た。小学生の頃は見なかったし、行かなくなった中学時代に生まれた娘?」
「馬鹿たれ。だったら目の前の子は三ちゃいとか四ちゃいか?」
和也の不意の赤ちゃん言葉に、僕は思わず吹き出した。
「いや、一ちゃいかもしれない」
「やかましいわ! にしても可愛い子だなあ。ありゃあクラスでモテモテと見た」「和也には、エベレストより高い高嶺の花だな、あの子は」
「バカにすんな! どんな山でも制覇するから、俺は。学級委員長舐めんなよ」
「お前の中で学級委員長の地位はどんだけ高いんだよ」
「ははっ! まあそんなことは置いといて、よし! 話しかけに行くか」
僕たちの認知と視線の接近に気づき、その子は清浄な瞳をこちらに向けた。適切な言動の選択に苦慮する僕を置いて、和也がその子に話しかける。
「どうも! 皆木和也って言います。あ、こっちは親友の矢崎颯斗です! 君はっ……」
次回更新は7月22日(火)、21時の予定です。
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