笑顔だが少し疲れた感のあるエッちゃんが俺の胸にかかっているネームプレートを確認して缶ジュースを置いてくれた。
『タビトの未来政経予測』は毎日午前と午後、新鮮な政治ネタをユーモアを交えコミカルに語る。どちらかといえば政権与党には批判的だが、与党内にも好意的に放送を捉える人もいるようで、時には驚くほどの大物政治家も出演していた。
いつもは多比余と解説役の大学教授や知人の政治評論家との対話がメインだが、今日は俺を含めて老若男女7人のゲストが招かれていた。
俺たちは全員、リビングルーム中央にある大きな応接セットに座らされている。首の運動を装って他の人たちを見回すと、全員が一癖も二癖もありそうな面構えだ。
例えば俺の左隣に座っている女性は映画俳優を思わせるほどの美形なのに、アンドロイドのように無表情で、時折顔を合わせてもその視線は俺を通り越して遥か遠くを見つめている。
他にも新人アナウンサーのように壁に向かって早口言葉を練習している女性もいれば、眉間にしわを寄せてソファの上に胡坐をかいて瞑想している和服姿の男性もいた。
そういう一風変わった人たちの中に平凡な俺が交じっているのだ。
もしかしたら大変な場所に来てしまったのかもしれない。いやそれ以前に都知事選に出るなんて一般人が到底考えないことに、なぜ俺が関わる羽目になったのか? まるで死にゆく人がその人生をたどるように記憶がよみがえってきた。