多比余はリビングルームの端っこ、窓際にある重役テーブルの上に並べられたパソコンや放送機材を気難しい顔でチェックしていた。高層階なのにカーテンを閉め切っているのは外から覗かれるのがよほど嫌いなのだろう。

多比余は大柄な男だ。服装にはこだわらないらしく、見たところ量販店に売っていそうなTシャツを無造作に着ている。

もっともこの俺、佐内雅彦(さないまさひこ)はファッションには疎いので、もしかしたらそのTシャツも有名なブランドのものなのかもしれない。

俺たち都知事選候補のゲストと目が合うとニコやかに微笑み、バニーガール姿のアシスタントにはぶっきらぼうに指示を出す。

その一方で解説役を務める大学教授の香村真奈美(こうむらまなみ)には、敬語を使って穏やかに話している。

ニコやかに、ぶっきらぼうに、穏やかに。人によって見事に表情を変えられるのはもはや顔芸だ。

この表情の豊かさと全身で表す喜怒哀楽の表現こそが堅苦しい政治経済ジャンルのユーチューブチャンネルの中で常に再生回数ランキング上位をキープできる秘訣なのだろう。

「エッちゃん、こちらのゲストの方にもジュースをお出しして」

多比余が俺の方を見てバニーガール(エッちゃんというらしい)に指示を出した。俺は少し遅れて入ったのでテーブルの上にコップが置かれていなかったのだ。

「佐内雅彦さんですね。どうぞ」