プロローグ

中国原因不明の肺炎 ─ 武漢で44人発症、11人重症─

これは2020年1月6日の産経新聞に載った小さな記事の見出しである。

注目すべき記事ではあったが、それ以上の詳しいことは書かれておらず、まさかこれが全世界を震撼させることになるコロナ禍の始まりであろうとは私には当初想像することもできなかった。

同じ日の厚労省(厚生労働省)のホームページには武漢渡航者に対する警告が載せられたが、厚労省からは我々医療従事者への注意勧告はまだなされてはいなかった。

しかし、早くも2020年1月15日には相模原市の病院に入院していた患者が新型コロナウイルス感染症患者であることが判明し、1月16日に神奈川県における国内第1例目の新型コロナウイルス感染症患者として公式発表された。

2月には横浜港におけるダイヤモンド・プリンセス号での大量発生という重大事件が発生したため、神奈川県は全国に先駆けて新型コロナウイルス対策に真正面から取り組むこととなった。

神奈川県医師会でも災害時医療救護本部を立ち上げ、ダイヤモンド・プリンセス号への対策について、県および日本医師会と連携を取りつつ、推進していくこととなった。

ダイヤモンド・プリンセス号の対応終了後は、新型コロナウイルス感染症対策本部を設置し、本部長は菊岡正和会長、対策副本部長は池上秀明副会長・宮川政昭副会長および筆者、そして公衆衛生担当の笹生正人理事をはじめ、地域医療担当の小松幹一郎理事、災害担当の久保田毅理事、救急担当の田村哲郎理事を中心とし、事務局は地域保健課が担う形であったが、事態の重大さから全理事、全事務局職員もこれに協力するようにとの会長の指示を受け、以後は、全会挙げてのコロナ対策に取り組むこととなったのである。