あの飛蝗(バッタ)少年も、つぶされたのだろうか? 少年は、段惇敬(トゥアンドゥンジン)の忠実な手下のように見えたが、手落ちがあったのか? あるいは反抗のそぶりがあったのかもしれない。

「ふうん、そうやって湯(スープ)をとってるのね。麵はどうしてるの?」

石媽(シーマー)が、ぐらぐら煮立った鍋をのぞき込んだ。

この女が、なにか知ってはいないか? 私は視線をおとしたまま、質問を投げかけた。

「どういういきさつでここに来たか、教えてくれない か?」

「あたし? うーん……亭主と別れちゃってね……はは。実家にも帰れないし、子供も亭主の家のほうにとられちゃったから、ひとりで北京に出て来たのよ。ここなら人生やりなおせるんじゃないかと思ってね。つてをたどって仕事をさがしてたら、湯(タン)さんを紹介されて、子どもの世話をしてほしいって」

「子どもの?」

「うん。でも、いざ入ってみたら、べつの人に決まっちゃったって。そのあと、家畜の飼育ができるかって訊かれたの。あたし、子供のころからやってたから」