【前回の記事を読む】【元外交官が視た北朝鮮】北側との会議に初めて出席。4時間弱にわたる意見交換の中、慎重を期して発言を控えた。
第二章 一九九八年 秋
九月二十日(日) 晴
海岸は誰のもの?
朝七時ごろ、韓電建設本部の技術監督課T職員より「李(イ)代表がつかまらない」として私に電話があり、海岸への立ち入りをめぐってもめているとのこと。さっそく李(イ)代表に相談したところ、行く必要はないとのことだったが、先例(八月十五日の項参照)もあり、しかたなく私一人で抗議しに出かけた。
現場に到着するとT課長他三名が副本部長の指示で釣りをあきらめて帰ろうとしていたが、私が抗議に来たというと、「もう一度一緒に交渉してみよう」ということになった。このまま黙って引き返せば引き渡されたサイトがだんだん自由に使えなくなるし、北側が提供しているゲストハウス前の海岸では万が一事故が起こった場合、何の保障も得られないからという考えがあってのこと。
私より北の警備兵に「ここはKEDOの敷地だから、立ち入ることも、そこで何をするのも自由であり、かつ、北の警備兵(銃器を所持)は出ていってほしい」と伝えたところ、「上官に連絡したので彼が来るまで、ともかくここから出てほしい」との一点張りで約一時間半押し問答や駆け引きが続いた。
そのうち李(イ)代表が現れ韓電建設本部関係者に対し「朝早くから人騒がせである、ここで争っても何の意味もない」として強く叱責。
また、私に対しても「あなたは新参で事情がよくわからないのだから、古参の意見を尊重してほしい、少なくとも日本代表であるなら北のしかるべき立場の人を相手にすればよい」と強く主張した。私自身は前例に則(のっと)って対応したつもりだったが、自分の立場を考えれば一理があると納得、引き上げることにした。
このようにKOK内部でもめることは好ましくないので事前に対処方針を決め、それを韓電建設本部や施工企業団に周知しておく必要があったのではないかと思った。