そろそろ出かけようという時、母から着信があった。兄に二人目が生まれたという。そういえばもうすぐだった。
「また女の子よ、安産だったわ。昨日からバタバタでねえ。可愛い姪っ子が生まれたんだから、帰って来れない?」
母は興奮していたが、紫は冷静だった。現在職探し中だとも、旅行帰りだとも言っていないし、兄の子供はあまり興味がない。
「お正月はいつも通り帰るから…。今はちょっと忙しいの。おめでとうって、伝えておいて」
いつも夏休みは2日しかないので、毎年年末年始しか帰っていない。
「そうかい、仕方ないねえ。ところで、お前のほうは…」
「ああごめん、行かなきゃいけないから、またね」
紫はさっさと電話を切った。どうせいい人いないのか、ということだ。お土産を送ったと言うのを忘れた。明日辺り届くだろう。まあお祝いになってちょうど良かった。今は実家のことなんて考えられない。
写メが送られてきた。どこにでもいる赤ん坊、もちろん可愛い。赤ん坊だから。一緒に写るその子の姉と両親。すなわち私の姪っ子一号と、兄夫婦だ。大仕事をし終えたばかりの義理の姉は、人懐こい笑顔をみせていたが、紫とはあまり相性がよくなかった。まあ、義姉だけではない…。
紫は明日の面接に向けて、いや、後日の咲元との逢瀬に向けて、美容室へと出かけた。生まれて初めてネイルも頼んだ。来週周る横浜案内のコースを決めておかなくちゃ…。浮き立つ自分をどこか滑稽にも思うが、止められない。
次回更新は7月18日(金)、11時の予定です。
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