横浜のアパートに帰宅した紫は心地よい疲れを味わいながら、携帯を握りしめていた。

付き合ってと言われたわけではない、という事実に気づいてからは少し冷静になった。仙台からの帰りに気づいたのだ。すっかり浮かれていたが、まだ彼氏ができたわけではない、ということに。丸1日、何度かラインをしてはいるが、恋愛というとこまでいってはいないのだ。

あまりしつこくしてはいけない。彼は仕事をしている筈なんだ。紫は洗濯やらの家事をしながら、なるべく求人情報を見るよう心がけた。こっちも大切だ。安物で囲まれた我が家に帰り、家事をしていたら夢から覚めたような気もした。しかし夢ではない証に、携帯を手放せなかった。

ラインを気にしながらも求人をチェックしていると、二、三良さそうなのを見つけた。

早速面接に向けて履歴書の用意と予約の連絡をした。働いていないのに、一日があっという間に過ぎた。

次の日には、咲元から横浜で会いたいというお誘いが来た。紫はウキウキと承知し、その合間にくる企業からの面接を決める日時のやり取りをし、スーツを用意しては、心乱れていた。

三つの会社に面接を申し込んだが、一社の面接が咲元から誘われた日と同じで、迷った末辞退してしまった。

掃除洗濯を済ませ、心を新たに爽やかな気分だった。もしかしたら、咲元がこの部屋に…。ついそう思ってしまう。ブラック企業で働いていた時は、家事なんて面倒なだけだったのに、楽しく自室を整えられた。我ながら浮かれてるなあとも思うが、今はそれでいい。楽しみたい、そう思った。