その時自分は体力もなくなってきて、疲れていたからその言葉がどういう意味だったのかわからなかった。だから、思ったことをそのまま伝えた。
『そんなのやだ! 絶対二人だよ!』
『……そっか』
「きっとあの質問で、兄さんは僕の事をどうするか、決めていたんだろうな」
「どういうことだ?」
「……村から離れたところまで来た時、リベドルトの奴らが待ち伏せしてた。なんで僕らが逃げてるのに気がついたのかわかんなかったけど、とりあえず逃げなきゃってことだけはわかってて。逃げようとしたんだけど、いきなり兄さん僕の事を突き飛ばして、リベドルトの奴らのほうへ向かっていった。
『なんで?』って聞いたら、兄さんはもともとリベドルトに手を貸してて、村を襲わせたのも自分だって……。
『お前はいつも足手まといだった。お前みたいな奴、殺す価値すらない。さっさと失せろ』って言ってた。……やっぱり僕はみんなにとってただのお荷物で、兄さんの顔に泥を塗る失敗作だった。兄さんだけじゃなく、みんなもきっとそう思ってた」
「……」
「……それから、逃げて、逃げて、逃げて……気がついたらここにいた。それで、もうなにもかも怖くなって……」
「それで勇気が出ない、と……」
「リベドルトの奴ら、全員殺してやりたいほど憎いよ。リベドルトに行って、兄さんのことぶん殴ってやりたいよ。でも、どうしても勇気出ないんだ。……ごめんね、こんな話、困るよね」
なにを言っていいのか、わからない。
想像していたより、ずっと酷かった。酷すぎた。なにを言ったらこいつを励ませるのか、どれが最適解なのか、わからない。もしも、下手なことを言って余計に自信をなくさせてしまったら?
『そんなことない』『酷い話だ』『辛かったね』だめだ。言えない。
俺はティーナみたいに上手く人のことを励ませない。あいつだったらこういう時なんて言う?
『これはただのあーしのわがままだよ』
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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