「失礼ね、私、ネズミじゃないわ……」
「ごめん、まさか人間だとは思わなかったから」
「人間でもないわ」。少女はすねたように言う。
「じゃ君はなんなの。座敷わらし……。いや書斎に住み着いているから書斎わらしかな」
「あなたホント失礼ね。全然わかっていない」。そう言われて光一は少しあわてたが、心の動揺を気取られないように落ち着いた口調で質問した。
「じゃ、キミは誰なんだい」
ここまで会話を交わしてやや警戒を緩めたのか、少女は服についたほこりをはたき、書棚のヘリにちょこんと座って応えた。
「龍クンの好奇心よ」
「好奇心……。龍クンの……」。その答えが光一には意外だった。コトバの意味がよく飲み込めない。
この書斎の主である先代社長の好奇心の化身……。ということか。戸惑っていると少女はふたたびコトバを発した。
「だからそう言ってるじゃない」
「い、いや意外だな、と思って」
「なにが意外なのよ」
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