パラパラとページを繰りながら物思いにふけっていると、書棚のどこかでコトッと音がした。
かすかな音だったが、光一は聞き逃さなかった。そう言えばこの部屋は時計の音が聞こえない。きっと集中して読書をするために時計の音さえ排除したのだろう。
光一は椅子から立ち上がり、音のしたほうの棚に近づいていった。棚の上のほうの分厚いスクラップブックが並ぶあたり。そこは、備えつけの梯子がなくては届かない場所だった。
見上げるとほぼ一冊分だけぽっかりと隙間が空いている。確かあのあたり……。光一は梯子を移動して登り、その一冊分だけ空いた隙間の奥を覗いてみた。なにも気配を感じない。
せっかくここまで登ったのだからと、目の前のスクラップブックを取り出そうとしたときだった。小さな黒い影が素早く書棚の奥に逃げ込むのを目撃した。
その大きさからいって昆虫の類ではないようだ。書斎の主が飼っていた小鳥か、あるいはハムスターのような小動物が逃げ出したのではないか。光一はそう考えてコミュニケーションをとってみることにした。
「チチチチ……」
そもそも意思の疎通がはかれるかどうかわからない相手だが、できうる限りおびえさせないように穏やかな音で誘ってみる。
「キキキキ……」
分厚いファイルとファイルの間、その奥になにかが潜んでいるのは確かだった。光一は息をひそめてしばらく様子を見ることにした。
すると、その小さな影はようやく観念したように、ものかげから顔を覗かせた。
光一はその姿を見て驚いた。身長20センチほどだろうか。フワフワとした透明感のある服を着た少女が目の前に現れたからだ。