たった一瞬だ。たった一瞬、視線のようなものを感じただけ。きっと気のせいだ、と自分に言い聞かせた。
「そういえばお前、出身は?」
「え? あーし? どこで生まれたかはわかんないけど、育ったのはここ」
そう言いながら地図を出し、栃木県南部あたりを指さした。ログは、「へぇ」と一回頷き、自分はここだと指さした。そこは栃木よりウィングフィールドに何倍も近い、九州だった。
「九州!? そんなの、船を使って行けばすぐリベドルトに着いたんじゃ……!?」
「お前と会うまでリベドルトがどこにあるのかも、ウィングフィールドっていう島の存在も知らなかったからな……右行くか左行くかの二択で外して、大規模のUターンしてるところなんだよ」
「今、どういう気持ちで旅してるの……?」
「ずっとへこみっぱなし」
「かわいそうに……」めずらしく、しょんぼりしているログを見て、かわいそうよりも先に「面白い」という感想が来て、なんとか笑わないように必死だった。
「……はーあ。あともう一人くらい、リベドルトのことについて知っているような奴がいたらなぁ」
「いきなりどうしたの?」
「いや……もうちょい早いタイミングで逆方向に進んでるって気がつけてたらこんな大規模のUターンしなくて済ん——」
ログはいきなり足を止めて、後ろを振り返った。さっきとは打って変わって、冷たい目つきで「誰か」を睨んでいた。
次回更新は7月9日(水)、12時の予定です。
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