甲賀の里で十蔵は、己と同じくらいの年頃の娘が、老忍からくノ一の術を仕込まれるところを覗き見たことがあった。十蔵もやはり若い男だ。最初は、老忍から攻められるおぼこと思われる娘の姿を興味本位で見て興奮していた。

しかし、次第に娘の姿が痛々しくなり不快な気持ちでいっぱいになってきた。老忍は、それが仕事なのであろうが、おぼこ娘をいっぱしの『女』とした後、男の一物を愛撫する方法を徹底的に仕込んだ。娘もやはり女だ。たちどころにツボを覚え、老忍を恍惚とさせている。愛撫を加えつつ男がどういう顔の表情の変化を見せるか上目遣いに観察している。

その後、あらゆる体位での行為が続けられた。十蔵はもう十分だ。これ以上見たくないと思ったが、これが約一月続けられるという。このように十蔵は過去に興奮と不快さを味わった経験があったが、此度は、里で最も美しい娘だと憧れたことのある蓮実であったから、期待は大きかった。

三成は、三成の夜具に横座りした蓮実の赤い帯をほどき、白い夜着を剥がしていく。
引き締まった輝くばかりの蓮実の白い裸身が現れる。

(美しい! これでは三成が溺れるのは当然ではないか)

十蔵は里の娘との男女の経験はあったが、これが『本物の女』ではないかと思った。つまり己はまだ『本物の女』を知らないのだ。三成は蓮実を組み敷き、蓮実は快感に悶える風を装っている。

(うん? いや、あれは本当に喘いでいるのではないか。あっ、絶頂に達してしまった。これも演技というのか? いや、真のように見える……)

三成は少し休んだ後、再び蓮実の身体に挑んだ。繰り返し同じことが起きた。蓮実は、自らは何もしていない。蓮実は手管らしいことを何も使っていない。

(あまり考えたくはないが、もしかして蓮実は三成に惚れてしまったのではないか。となれば……これは大変だ! 蓮実の心が三成に奪われてしまったのなら、寝返って三成方についたわけではなかったとしても、もはや蓮実からの情報は信じられぬ。くノ一が逆に虜となってしまうということがあるのか?)

十蔵がもやもやとした気持ちのまま善実坊の屋敷に戻ると、事態は急転していた。

宇喜多秀家を総大将とする軍四万が伏見城を囲んだ。副大将は小早川秀秋で、ほかに島津義弘、小西行長(ゆきなが)、長曾我部盛親(ちょうそかべもりちか)、毛利秀元、吉川広家(きっかわひろいえ)、大谷吉継らがいた。甲賀衆は三百余名が伏見城に籠ったという。

太一と初音は開戦に備え、急ぎ京に戻っていた。十蔵もすぐに京に戻り、戦況を注視するよう命じられた。

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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