突如現れたその人は

狼に殺されそうになっていたティーナに駆け付けたその人は、自分と年も同じくらいの男の子だった。突如、ヒーローのように現れた男の子は狼の上から飛び降りて、ティーナに近づいてきた。

「怪我ないか?」

「う、うん。ありがと……」

すると、男の子はさらに自分に近づいてきた。

(え、なんか聞くことでもあるの? というかこれ、もしかしてこの人と仲良くなっちゃったりする!?)

突如駆け付けた男の子と仲間になり、絆を深めていく……昔、ナギサに教えてもらった、そういう「王道展開」の始まりなんじゃないか、これは。「何番煎じかもわからないぐらい、あるあるすぎるストーリーだけどね」と、ナギサは言っていたが。これは絶対なんか聞かれる。そうに決まってる。と身構えたが……

「じゃあな」

男の子は、「名前は?」などと聞くこともなく、自分の横をすり抜けていこうとした。

え、ちょっと待って、なにもないの?

さっきまでくだらない妄想をしていた自分と、予想を裏切られたことになぜか腹を立て、ティーナは彼の腕を掴み、引き留めた。男の子は一瞬目を見開き、すぐに聞き返した。

「うわっ、なんだよ、まだなにか——」

「さらっと人を救ってなにも言わずに帰る人がどこにいんの!」

「はぁ? 別にどうしようと俺の勝手だろ」

ごもっとも。冷静に考えたらそうだけれど、さすがに「じゃあね」で行っちゃうのってどうなのよ。絶対見た目が……主に角の事でどーのこーの、って追及を受けると思っていたのに、ここまでくると逆にこっちがむかついてくる。気味悪がられることだって覚悟していたのに。