その狼の周りをよく見てみると、小さな個体がボス狼のそばに倒れていた。その狼は、銃で撃たれたような傷があった。

(ボスを、かばった……?)

一度弾を外したせいで、群れの狼すべてにこちらの位置がばれた。こうなったらもう戦うしかない、もう一度弾を込めてスコープを覗いた時、視界が真っ暗に染まっていた。

まさか。全身が寒気に襲われる。

スコープから目を離し、見上げると巨大な狼が立っていた。

逃げようと周りを見回すと、もうすでにほかの狼たちに囲まれていた。狼たちの目線はこちらに向けられていて、もう逃げ場はなくなっていた。

殺される。

その恐怖で足が動かなくなり、その場に座り込んだ。もうこの状況でライフルを用意することはできない。

あーし、こんなところで死んじゃうの?

ナギサにも、会えずに?

そして、ボス狼は、ティーナに牙を向けて襲い掛かった。ティーナは強い恐怖で目をつぶった。

「いやっ……!」

その時、狼の断末魔の叫びが、聞こえた。

「——え?」

痛く、ない。

襲われたはずなのに、どうしてなんだろう。もしかして、死んだ? 死んだから痛くないの?

違和感を覚え目を開けた。

次回更新は6月25日(水)、12時の予定です。

 

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