【前回記事を読む】【プロローグ】そして、「■■」は消えた―― 荒廃した世界で赤子を見つけたロボット。その時確かに、感情が胸に宿った
第一章 ロボットと少女
どうしてこの子を
この世界は、三百年前、人類の九割が滅んで、土地は荒廃し、そこら中に化け物のような姿をした動物たちがいる。人間が減少してから空と海はかつての穢(けが)れない姿を取り戻し、所々に、もともと人でにぎわっていたであろう廃墟がある。
さびても原型をとどめている遊具が置かれた公園。
津波で骨組みだけになってしまった学校。苔まみれの家。
動物たちが住処にしているマンション。
ロボットが赤子を連れて帰るうちに見た数々の文明の遺物が、その証拠だった。
野良の人類は、多く見積もっても世界で千人ほどしかいない。そんな世界に放り出されたロボットにとって、人型の生物はとても珍しい物だった。
一キロほど歩くと、住んでいたマンションにたどり着いた。
数か月前、ここら一帯を吹き飛ばすような大爆発が巻き起こった。だから、きっとここもただでは済まないだろうとは思っていたけど、どうやら無事だったようだ。室外機もベッドも残っていて、少し驚いた。その爆発で自分自身も頭を打ってしまい、外傷こそなかったものの、少し故障していたところはあったので、そこを直すのが結構面倒だった。
(さーて、どうするかな……)
「ああぁ、ああう」
赤子は——ティーナは、手足をばたばたと振りながらぐずりだした。ロボットはすぐにそのことに気がつき、慣れない手つきでなだめた。するとティーナはすぐに眠ってしまった。この調子だと、きっと一日中起きないだろう。
「ふぅ……」
ロボットは赤子をバネが壊れたベッドに寝かせると、ため息をつきながら、壁に寄りかかり、そのまま座り込んだ。久しぶりに、疲労を感じた。特に疲れるようなこともしていないが、初めて「人間」(のような生物)を見て心が疲れたのかもしれない。疲れる、興味が湧く、今日はなんだかいつもとは違う。爆発の影響がまだ残っていて、精神システムにエラーでも起きているのかもしれない。
(あとで、直さないとな……)