鏡を見ないでくださいって……。紹介された札幌一の形成外科の医師はこう言った。
「先ず私の話をよく聞いてください。いいですね。この怪我は必ず治ります。今は酷い状態ですが私の力で必ず治せます。だから安心してください。今から鏡を見てもらいます。必ず治りますから。いいですね」
鏡を見て私は言葉を失う。
洪水のように涙は止まらない。
心が抉られるようだった。
眼球が飛び出て、眉毛は吊り上がり、おでこは内部の肉まで見えてグチャグチャ。
終わったな……。
そう思いながらも頭に浮かぶのは仕事のこと。
「これじゃ、仕事行けないじゃん」生活が懸かっているのだ。
医者に止められたが、私は眼帯を付け、頭に包帯を巻き、帽子を被り、分厚く前髪を下ろし、仕事へ行った。接客業はしばらくできない。居酒屋の厨房で皿洗いだ。その医師の元で手術は五度に渡って行われ、うっすら跡が残る程度でほぼ元通りに完治した。
のちに、保険金が三千万円入った。その金は私が未成年だったため、親の元へ預けられた。その金は弟の大学費用や月三十万円の仕送りと、マンションのローン完済に当てられた。
そして両親は姿を消した。
私は保険金のことを弟には言わなかった。弟にとっては大事な両親だからだ。
次回更新は6月20日(金)、20時の予定です。
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