1.子どもの描画の発達段階
絵を描き始める時期とその特徴
クレヨンやフェルトペンなどでなぐり描きを始めるのは、手の支えがなくても歩くことが可能な二足歩行を開始する1歳頃からです。
この時期には、ハイハイで体を支えていた両手が解放され、手の指や手のひらでものに触れたり、小さなものをつまんだりつかんだりできるようになります。そして、握る機能により、クレヨン、パス類(クレパス等)やフェルトペン等の描画材を使うことが可能になり、なぐり描きを始める可能性が出てきます。
生まれたての赤ちゃんは、手をぎゅっと握った「グー」の状態ですが、2か月頃から、親指が他の4本指から離れます。その手を、感覚が真っ先に発達した口でなめたりします。
やがて、手が開くことを知ることから、身近なものを握り始めます。でも、まだ握ったものを離すことはできません。それができるようになると、身近な物に手を伸ばし、自分の方に引き寄せるようになります。
6か月頃になると、親指と他の4本指でものを挟むことができるようになり、そして手のひら全体でつかめるようになります。9か月頃には、人差し指が曲がるようになり、1歳頃には、小さなものをつかむことが可能になります。
このころから首も据わり、安定した座位も可能になります。さらに、二足歩行が可能になると、手はより自由を得てなぐり描きが可能になります。
描画を始める時、最初はクレヨンを握るように持ち、慣れてくるとやがて鉛筆持ちが可能になります。
人間は、鉛筆持ちができる唯一の生物です。人間の両手は、それぞれ5本の指があり、親指に対して他の4本が、相互に向き合う母指対向性が特徴です。
人間は、親指と人差し指の指先で、お米一粒をつまむこと(精密把握[precision grip])ができる手の構造を有しています。チンパンジーやゴリラも母指対向性があり棒などをつかむ(握力把握[power grip])ことができますが、親指が短く親指と人差し指の指先でつまむことはできません。
この人間の手の仕組みが、脳の神経構造とも対応して道具などの複雑な形づくりや表現を可能にしているのです。上の前歯が4本生え揃う頃から自分でブラシを握り、親のサポートを得て歯磨きができるようになるのも1歳頃からです。丁寧な歯磨きができるのも、他の動物にはない人間の手の可能性です。
(1)世阿弥『風姿花伝』野上豊一郎・西尾実校訂、岩波文庫、1958
(2)J.J.ルソー『エミール(上)』今野一雄訳、岩波文庫、1962
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