Chapter1 天変地異
「川田君、どこへ行くの?」
「凄い音がしたから、何事かと思って」
「気になるのは分かるけど、中で待機していてくれ。みんなでぞろぞろ出てきても危ないよ」
「分かってます。だから他の男子には待っているように指示しました。俺は大学生のテントに状況を聞きに行こうと思って」
「すごいなキミは。まるでリーダーみたいだ」
「忘れたんスか? 午前中、俺のことを中学生のリーダーにしたの、アンタでしょ」
「そうだったっけ?」
「しっかりしてくださいよ」
早坂らが女子の住居に潜り込んでなかなか出てこなかったので、林と川田は星空の下、所在なくあたりを見渡していた。今、何時くらいなのか。二人とも時計をしていなかったので分からなかった。スマホの時刻表示もなくなった。
それにしても星明りが強い。林は首を背けて天を見上げた。心なしか、星の数が多いような――林は知っている星座を探そうとしたが、見つからなかった。それどころか、まるで別世界の夜空を見ているような違和感があった。
「さっきの揺れは何だったんだろう」林は呟いた。「あれだけの衝撃だ。きっと何かがあったはず。地割れとか、 山崩れとか……」
「それであんなに眩しく光りますかね」
「うーん。雷にしては……。空には雲一つ無いし」
「明日の朝、明るくなってからじゃないと、調べようがないっすね」
その晩はそれっきり何の異常も起こらなかった。
大学生たちは中学生を落ち着かせると、事態の調査は明日することにして、自分たちも寝所に戻った。ほとんどのメンバーが不安で眠れなくなるかと思われたが、すぐに寝息を立てた。
夜がしらじらと明け、藁の隙間から光が差し始めた。
林は身体を起こし、住居の中を見渡した。ほの暗い中、敷布が並んでいる。まだ寝ている者もいれば、起き出して空っぽの床もある。早坂と盛江の姿が無い。表から話し声が聞こえる。
林は目をこすり、外へ出た。
「さぶっ」
朝もやが肌をひんやりと撫でる。太陽は山の稜線からまだ顔を出していなかったが、空は明るかった。
林は肩をすぼめ、数歩先にたむろしている仲間に近づいていった。
「だめだ」早坂の声。「圏外だよ」
「私も」と泉。
「俺のもやっぱりだめだ」と盛江。
三人はそれぞれ異なる電話会社を契約していた。この三人が全滅ということは、キャンプ場の電話連絡手段は完全に途絶えたも同然である。観光案内所に回線電話があるが、施錠されていて使えない。係員がやってくるのは早くて七時半。まだかなり時間がある。
「おかしいなぁ」盛江は自分の電話を振って忌々しげに言った「昨日は大丈夫だったのに」
「昨夜の地震で電波塔が壊れたのかしら?」
――電波塔? そんなものあったっけ?
林は周囲の山々に電波塔に類するものを探した。鉄柱も電線も見当たらない。ちょうど南の空に視線を向けた時、
「あッ !? 」
林は思わず声を上げた。