第七章 偶然、元カノに出会う
ジーパンを試着していて、出たら彼がいない。何か見ているのかなと、別のジーンズも試着したら話し声がした。女性の声だ。
「涼真、会いたかった! 探したんだよ。もうわがまま言わないから。忘れられないの。愛しているの」と、
「何を言っているんだ! 止めてくれ! 僕は結婚するんだ!」
「涼真の子供を産んだの! もう五歳になるの。女の子よ!」と言っている。
耳を疑った。頭が真っ白になった。何! 何の事を言っているの? 子供、涼真さんの子供! ああ~、どうすればいい!
手が震えて、試着したジーンズが脱げない。美樹、落ち着いて、と自分に言い聞かせて深呼吸を何度もした。
でももしそうだったら、別れなくてはいけないのかと恐怖が頭を横切る。怖い。誰か助けて……私は子供が生めない。涼真は自分の子供だったら、復縁を望むんじゃないかと思ったら体が震えた。
「何の事だ! 君が好きな人ができたと言って、別れただろう」
「その時には、妊娠していたの」
「はぁ、どういう事だ! そんな事何も言っていなかっただろう」
「別れた時は知らなかったの」
「その人とは結婚したのか」
「一年したら別れたの」
「子供は?」
「自分の子じゃないからと言って別れたの。だから、私と結婚して欲しい」
涼真は余りの驚きで、声が出ない様子。少し落ち着いて私は自分に言い聞かせた。さすがだ。五十歳の底力と……。